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江戸時代から受け継がれた技術と遊び心が刻まれた伝統工芸品 「戸河内刳物」とは

広島市中心部から車を走らせること約50分。山々の谷あいに赤茶色の瓦の家がぽつぽつと見え始めると、安芸太田町はもうすぐそこです。

四方を山に囲まれた町は森林面積がおよそ9割を占め、古くから良質な木材が採れると言われてきました。そんな山の木を、すべて手作業で刳りぬいて作るあたたかな生活道具が、江戸時代後期からここ安芸太田町で作られ、全国で愛されてきました。「戸河内刳物(とごうちくりもの)」と呼ばれる伝統工芸品です。

作り手は、安芸太田町吉和郷にある工房「横畠工芸」さん。2代目の横畠文夫さんにお話を聞き、戸河内刳物の歴史や魅力、工房でできる刳物体験についてご紹介します。

横畠さんの工房も山のすぐ近く。雨が降ると霧が立ち込め、幻想的な風景が広がります
お邪魔した工房にはカンカンと木を刳りぬく音が響き、さっきまで丸太だった木片から、横畠さんの手によってたくさんの木のお玉が生み出されていました

江戸時代後期から絶えず受け継がれる
戸河内刳物の歴史

戸河内刳物のはじまりは、なんと江戸時代後期にまでさかのぼります。
安芸太田町の木々は気候風土の影響によって粘り気を持ち、加工をしても変形しづらいということから、同じ広島県の伝統工芸品「宮島細工」に使われていました。そんな中、宮島細工の職人である藤屋大助が刳物の技術を創始します。大正時代初期には同じく宮島細工職人の福田李吉が安芸太田町に移住して技術を伝えたことで、この地で戸河内刳物が作られるようになりました。

現在刳物を手掛ける工房は、宮島を入れても横畠工芸さんの1軒のみ。安芸太田町に30名ほどいた職人も数こそ少なくはなったものの、今は横畠工芸の職人4人が技術を受け継ぎ、その良さを広めています。

刳物に使うのは、山桜や栗、欅、朴の木など。品種改良された木や香りの強い木は、変形しやすかったり食べ物に香りが移ったりしてしまうため適さないのだそう
こちらが文夫さん。奥さまの智保子さん、息子の裕希さん、沖野さんの3人と一緒に、日々工房で木々と向き合う、横畠工芸2代めの職人です

12種類の道具と
16の工程で生まれる一点もの

工房のすぐそばにあるギャラリーでは、しゃもじや急須、スプーンや花瓶など、戸河内刳物のさまざまな生活道具を手にすることができます。
中でも代表的なのは、「浮上お玉」と呼ばれる木杓子。その名の通り水に沈まない素材を使っているため、うっかり鍋に落としても沈むことがありません。

一本の丸太から次々に木片を切り出し、お玉を作っていく横畠さん。まるではじめから輪郭が見えているのを掘り出していくように、みるみる形が出来上がっていきます

戸河内刳物の特徴は素材だけではなく、機械ややすりも使わず、カンナやノミといった和道具のみを使って、すべて手作業で形作っていくこと。丸太を切り皮を落とすところから、実に12種類の道具を使い分け、16の工程を経て杓子が生まれます。できあがった杓子は作る人によって作風の違う一点もの。手づくりだからこそ楽しめる味わいがあります。

壁にかけられた道具は、確認できるだけでも優に100を超えるほど。文夫さんが職人になった68年前から使っているものもあり、道具1つをとっても歴史を物語る荘厳さを感じます
工房にはわかりやすく工程が書かれた手書きの紙と、見学に来た小学生からのお礼の手紙が大切に飾られてありました。横畠工芸さんがお客さまとのコミュニケーションを大切にされている証です

親しみあり・遊び心あり・進化ありの伝統工芸品

文夫さんには、いくつか心に残っている出会いがあると言います。
ある日県内の物産展に出店し、会場で杓子を刳っていたところ、1人の男性が文夫さんの前で立ち止まります。話を聞くと祖父が刳物職人だったそうで、もう戸河内刳物の生産はなくなったものと思っていたのだとか。今も受け継がれる技術に感動し、応援しますと言ってくださったその方の働きかけで、戸河内刳物は県の伝統工芸品に指定されることに。
そしてもう1人、横畠さんの前で足を止めた方の熱い誘いに負け、それまで県内のみと決めていた物産展への出店を東京で行うことになったそう。するとたちまち名が知られ、全国から出店の声がかかるようになったと言います。

「あの人たちがおらんかったら、今はうちの工房もないかもわからんねえ」
そう振り返る文夫さんが大切にされているのは、木の面白さを活かしながら『お客さまの求めるものを作る』こと。「”こういうのがほしい”ちゅう声にはやっぱり応えていかんとね」と、物産展などで出会うお客さまの要望を聞き、半分だけ穴の空いたお玉や曲げた柄が鍋のふちにかけられる杓子など、かゆいところに手が届く、ユニークで新しい作品を日々生み出されています。
伝統工芸品と言うと格式高いような印象もありますが、親しみあり・遊び心あり・進化ありの戸河内刳物だからこそ、時代を超えて多くの人に愛されるのでしょうね。

表面に漆を塗るアイデアもお客さまからいただいたのだそう
奥さまの智保子さんの作風は、力強く遊び心がたっぷり。ひらめのお皿は裏返せば粋なとんぼのあしらいがあり、花瓶を置く台としても使えます

これからの目標をお尋ねすると、「やってみたいという人の声にはできるだけ応えて、体験してもらいたいねえ。それでもっと刳物を身近に感じてくれれば」と文夫さん。
数年前から工房での刳物体験を受け入れるようになり、今では定期的に通う方もいらっしゃるとか。旅の思い出や自分だけの道具作りに、工房へ足を運んでみるのもいいかもしれません。”職人”というよりもお父さん、お母さんと呼ぶのがしっくりくるほど物腰柔らかいお二人が、優しく迎え入れてくださいますよ。

横畠さんに教えていただきながら、杓子の仕上げの工程を体験できます

カンカンと木を刳る音が響く工房の中、木の香りを感じながら目の前で職人の技を見つめる時間は、あっという間に過ぎてしまうほど引き込まれる世界観。最後に体験させていただいた杓子作りも、図工の時間に初めて彫刻刀を持ったときのような懐かしさと新鮮さ、ドキドキで胸が高鳴り、終わった頃にはまた来たいと思う体験でした。ぜひこの感覚を味わいに、横畠工芸さんの工房を訪れてみてください。

【2022年11月25日追記】
江戸の世のひろしま探訪(広島県歴史文化ポータルサイト)でも紹介されました。

横畠工芸(工房・ギャラリー併設)

※来訪の際にはあらかじめお電話ください。

住所 広島県山県郡安芸太田町吉和郷335
電話番号 0826-28-2063
FAX 0826-28-2063
営業時間 10:00~16:00
定休日 年末年始

刳物体験のご予約は下記予約サイトからご予約が可能です。人数やご要望をお聞きしてのご案内もできますので、気軽にお問い合わせください。
また、ご紹介した商品は、道の駅来夢とごうちもしくは下記通販サイトでもお買い求めいただけます。

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